突然の深圳・香港旅2016(2)懐かしい場所を訪ねると

そのゴルフ場に初めて行ったのは1991年の旧正月。私が香港に赴任してすぐに旧正月が来てしまい、暇だろうと先輩が誘ってくれたのだ。当時まだ住居が決まっていなかったので宿泊していたホテルの前からゴルフ場行シャトルバスが出ていた。いきなり国境を越えていくゴルフは何とも新鮮だった。

 

香港ならではと思い、それがきっかけで、一時は毎週のように友人たちと出掛けていった。朝5時に起きて、タクシーを探してでも、楽しかった。国境も最初は凄く遠回りの場所だったが、その後落馬洲皇崗が通れるようになり、かなり便利になった。とはいえ、朝は1つしか窓口が開いておらず、重いバッグを持って毎回並んだものだ。更に先輩に聞くと税関がゴルフ道具を知らずに、クラブ一本一本調べた、ボールに何か仕込まれているのではと疑われたなど、ユニークなエピソードも多い。

 

そのゴルフ場は今では深圳旧市街地のど真ん中、一等地にある。当時地下鉄などなかったが、いつの間にか駅までできている。ただ広い敷地のため、どこから入ってよいかもわからない。昔深圳は怖いところ、という印象があり、20年以上前は市街地に行くこともなく、泊まることもなく、深圳の地理はよく知らなかった。

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ゴルフ場は未だに営業はしているが、既に土地のリース期限が過ぎており、今後この土地をどうするのかを協議中らしい。もう開業から30年以上も経っているのだ。一部会員しか中に入れないのだが、お願いしてクラブハウスを見せてもらう。私が来た頃と変わっていないのは玄関周りぐらいか。コースも20年前に大幅改造され、周囲には別荘も分譲されていた。懐かしい場所だが、景観は一変していた。

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それから地下鉄に乗り、羅湖へ向かった。ここは2001年以降、私がお茶の旅を始めてから度々来た場所だった。香港から九龍鉄道に乗り、イミグレを越えた。駅からほど近いところにある茶葉世界というお茶市場には一体何回行ったことだろう。今でも100軒以上の店が並んでいるが、昔のような活気はない。それは郊外に大型の卸市場がいくつも出来たこと、そして香港の経済力が弱くなり、香港人が来なくなったことに起因していると思われる。

 

2階に上がり、いつも行く一號茶荘に顔を出す。ここは15年前、私が初めてこの市場へ来た時に出会った紅美という女性の店。福建省の武夷山近くから出稼ぎできて、最初は岩茶の店で小妹をやっており、その後自らの才覚で、店を持ち、今は2号店もある。彼女は現在2号店に出勤しており、この古い店はご主人がやっている。久しぶりに紅美に会いたいというと、すぐに連絡してくれ、深圳郊外にある2号店の場所を教えてくれた。午後はここへ行ってみよう。

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一號茶荘の斜め向かいには唯一台湾人経営の子揚茶荘がある。ここのオーナーは高雄の人で、この市場が出来た1997年に深圳へ出てきて店を構えていた。長い付き合いをしていたのだが、その姿は店になかった。代わりにこれまた古い付き合いの春桃姐さんがいたので、声を掛けた。オーナーは、というと、一瞬戸惑ったような顔をして『天国に行ったわ』と寂しそうにいうではないか。既に1年も前に彼は居なくなっていた。私はたまにしか来ないのでそのことを知らずにいた。店は春桃が引き継いだらしい。ただお茶はこれまで同様、台湾茶が中心だ。しばしオーナーを偲んでお茶を飲む。

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もう一軒、単叢の店に寄ったが、いつも物憂げな李さんもいなかった。最近は税関を退職したご主人と交代で店をやっているらしい。日本にも旅行に行っているようで、次回はどこへ行こうかと相談される。閑散とした茶葉世界だが、その変化は相当なものがある。これからこの市場がどうなっていくのかには、ちょっと興味がある。

 

昼ご飯をかっ込んで、地下鉄に乗る。それにしても飯代は高くなっている。駅付近で5年前の2倍にはなっている気がする。それに為替を加えれば、実体はもっと高く感じられる。1号線から2号線に乗り換えて、約1時間、龍城広場と着いた時には結構疲れてしまった。深圳の地下鉄も香港に倣っているのか、冷房がやけにきつい。

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駅のすぐ近くに大きなお茶市場があると聞いてきたが、見当たらなかった。とにかくこの辺まで来てもまだ、大規模マンション開発が進んでおり、ちょっとした建物では目立たなくなっている。案の定、マンションの後ろ、ショッピングモールの脇に茶城があった。しかも中は複雑で、店を見つけるのにかなり苦労する。

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その店は予想よりかなり大きかった。大きな椅子に紅美がドカンと腰掛け、若い男の子2人を使って商売していた。あの幼かった彼女が15年で店を持ち、結婚して子供も持った。この近くのマンションも購入したという。ある意味で、彼女は深圳ドリームを実現した一人かもしれない。

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それでも現在茶業には逆風が吹いている。以前のように右から左に茶が売れる時代は過ぎている。店にはちょくちょくお客が来ていたが、大きな商売は減っているという。『まあ、昔ゼロから始めたことを考えれば、何とかなるのよ』と彼女は笑っていたが、これからどうなるのか、現在の中国で先が見えている人はいない。

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