四国・和歌山・静岡茶旅2015(10)静岡 朝から釜炒り

3月15日(日)

藤枝で釜炒り

翌朝は5時に起きる。5時半にはS君のお母さんが朝ごはんを用意してくれた。何とも申し訳ない。S君は既に軽トラに荷物を積み込み、6時には家を出た。そして途中で商品のお菓子を取りに行き、7時前に藤枝の朝市会場に着いた。『れんげじオーガニックマーケット』という名前で月に一度開かれる。有機野菜や健康的な食べ物、飲み物が売られる。周囲は公園で池があり、環境は良い。

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参加者は農家の他、レストランや個人などであり、こじんまりした意外なマーケットであった。7時前には出展者のミーティング、自己紹介なども行われ、ちょっとしたコミュニティという雰囲気があった。S君は着々と準備をしている。毎回ここで釜炒り茶の実演会を行い、お茶を売っているというのだ。大きな鍋もセットされ、さて釜炒りが始まるぞ、と思っていると『僕は販売に注力しますから、釜炒り宜しく』と言われて面食らう。まさか自分がお茶を炒るなど考えてもいなかったのだ。私が静岡に留められた本当の理由、それはこれだったのか、と気が付くが後の祭り。まあ楽しそうだし、いいかと始める。

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恐る恐る茶葉を鍋の中でかき混ぜる。少しずついい香りがしてくる。お客さんが来始めた。S君のお茶のファンだというIさん夫婦がワンちゃんを連れて、手伝いに来てくれる。隣のドーナッツの売れ行きが良い。私の炒りにも力が入る。お客さんに試飲してもらい、少しずつ売れていく。何となく順調。

 

ところが1時間も炒っていると、腰が痛くなってきた。これはまずいな、と思っていると、そこに女子中学生が4人やって来て、やりたいという。実は先月もここで釜炒りを行い、香りが良いのと、手がスベスベになったので、またやりに来たらしい。陸上部でこれからこの周辺を走るとか。これ幸いとお願いした。お茶にはこんなニーズもあるのか、とひそかに勉強になる。

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お客さんの動きを見ていると、半数ぐらいの人は、釜炒りやその香りに興味を持ち近づいているが、半数は素通りする。ところは釜は素通りながら、その横にいるI家のワンちゃんに反応する人が意外と多い。そしてこのワンちゃん、Iさんに倣ってお茶好きらしい。ペットフード全盛の時代、ペットドリンクとして、お茶があってもよいのではないだろうか。誰か過去に開発を試みた人はいないのか?

 

このマーケット、7時に始まり、11時前には何となく終了した。完全に売り切れて早々に引き上げる人、残った物を片付ける人など様々。我が釜炒りはまあまあの売り上げとか。正直4時間立って作業をしても、それほどの売り上げにはならない。商売とは厳しいものだと改めて感じる、と同時に何とも言えない楽しさがあり、人々の交流の場としてこのマーケットが機能していることもよく分かった。

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そしてS君はどんどん撤収作業を進め、あっという間に軽トラに積み込み、呆気なく去って行った。私は東京から手伝いに来たすーさんに引き渡され、その車に荷物を積み込む。すーさんはお茶好きで、度々静岡を訪れているという。お茶好きと言っても、東京から月に一度以上車を飛ばしてここまで来る人は珍しい。

 

お茶っ子交流会

すーさんの車は藤枝から静岡方面へ。まずは腹ごしらえのランチへ向かう。私は食事の選択は全て相手に任せるようにしているが、すーさんの選択はカツ丼、ちょっと意外で面白い。勿論カツ丼好きの私に異論は全くない。何でも息子さんが高校時代を静岡で過ごし、毎週のようにこの辺に来ていたという。お茶に深く入るきっかけもそれだったようだ。

 

そして午後、静岡市内のある建物へ行く。そこで『お茶っ子クラブ』に参加した。震災後、福島から静岡に移住した方々の親睦会と聞いていた。会場に行くと、その部屋には誰もおらず、皆さん5階の別室にいるというのでそちらへ。そこではろうそく作りが行われていた。これは311の慰霊のために使われると聞いたが、皆さん何とも明るく、楽しそうに作っていた。私も1つ作ってみたが、色を3重にしてなかなか楽しい。このような地道な活動が人の心を和らげてきたのかな、とちょっと感じた。

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その後、1階の部屋に戻り、持ち寄ったお菓子などを食べながら懇談。すーさんはすかさず、ここでお茶を淹れる。日本茶、中国茶などバラバラ。どんどん淹れていく。正直この会でお茶を淹れる意味は良く分からなかったが、実際に行ってみると、参加者から『人にお茶を淹れてもらうのは何とも嬉しい』とか『お茶を飲むと何だかホッとした気分になる』などという声が聞かれ、よく言われる癒しの効果、そして人を繋ぐ1つの要素になっていることに気が付く。すーさんがここでお茶を淹れ始めた経緯は良く分からないが、これはかなりすごいことかな、と思う。

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会には静岡の大学生がボランティアで参加していた。女子学生がやって来て、就職相談をすることになる。『海外で働くことに興味がある』ということだが、やはり実感がわかない、日本での就職を基準に物を考えてしまうようだ。まずは外に出てみることから始めよう、とアドバイス。

 

今日でボランティアを終わるという大学4年生の男子がいた。とても明るい性格で、誰からも好かれているように見えた。ケーキが出され、皆が彼の前途を祝していた。驚いたことに彼の就職先は『バンコック日本人小学校』。まさか新卒で海外の日本人学校に採用されるとは。聞くと、現在は新卒採用もあり、その条件も国内よりかなり良い。彼は静岡県の試験にも合格したのに、不安定な2年契約のバンコックを選んだという。これは今後の方向性の参考になる事案だった。色々な要素が含まれている。

 

東京へ

午後4時過ぎに会がお開きになり、すーさんの車で東京へ向かった。今日初めて会った女性の運転する車の助手席に座り、東京まで送ってもらう。普通では考えられないかもしれないが、それが私の旅。すーさんはお茶関係者にかなり顔が広い。話していると、共通の知り合いもおり、今後一緒にお茶会しよう、など様々な前向きの話が出る。面白い。日本茶に関しては参考になる話を沢山聞いた。

 

日曜日の夕方、高速道路はある程度混んでいたが、思ったほどの渋滞もなかった。途中蛯名のサービスエリアで軽食を買い、車の中で食べる。ちゃんとポットに入ったお茶が出てくるのがすごい!すーさんはここ数年、東京-静岡の往復を一体何回したのだろうか?相当に慣れている。

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それにしても、東京の自宅まで車で4時間、ずーっとお茶の話をして過ごした。このような経験も実はあまりない。お茶が好き、という1点で結び付いたご縁、同好の士というのか、何とも楽しい時間を過ごした。これもすーさんのお人柄によることが大きい。今回は日本の中の長旅、だったが、日本のことは知らないことばかりだと再認識した。同時に様々な人と触れ合うことが真に重要だと感じさせる旅でもあった。またこんな機会があるといいな。

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