シベリア鉄道で茶旅する(34)モスクワの中国人茶商

 中国人茶商と会う

窓から外がよく見える。朝は前の道がかなり渋滞していたが、今は車の流れがスムーズだ。昨日までいた雪の世界とは全くの別世界だった。昼前に出掛けた。今日はモスクワにいる中国人茶商と会うことになっていた。ホテルの目の前のレーニン大通りをひたすら行けば、着く所が待ち合わせ場所に指定されていた。だが彼からの連絡方法は微信であり、会話は全て中国語。『旅遊大廈33階で会いましょう』と連絡が来たが、そのビルがどこにあるのか、モスクワの地図を見ても、地球の歩き方を見てもさっぱりわからない。

DSCN9547m

 

番地から判断すると、地下鉄では駅から遠いらしい。バスはよくわからない。仕方なくタクシーを拾う。モスクワのタクシーも多くが白タクだった。手を上げて停まれば、料金交渉をしなければならない。目的地を言うと、800㍔だという。かなり高い気がして値切るが、我々はその距離が分らないため、イマイチ交渉力がない。おまけに、『早く乗らないと駐車違反になる』と言われ、そのまま乗り込んだ。

 

運転手は悪い人間でもなさそうで、実際道は真っすぐだったものの、車はかなりの距離を走った。レーニン通りというぐらいの名前だから、かなり広い通りだが、市内の中心部かというとそうでもない。むしろ郊外に向かって走っていく感じだった。20分ぐらい乗っただろうか、ちょっと高い建物が見え、車はその下で停まった。韓国の起亜モーターのショールームがあった。33階以上の建物などこの周囲になかったから、ここに間違いはない。

DSCN9551m

 

未だ約束の時間には早かったが、取り敢えず指定されたレストランを確認する。このビル、オフィスビルのようで、一応エレベーターに乗るところに警備員がいた。中国料理の店に行くというと、私を中国人と見たのか、すぐに通してくれた。33階かに上がると、両側に中国語が見えた。いずれも中国レストランらしい。入口の女性に中国語で話しかけても通じない。微信で連絡すると、渋滞にはまっているという。彼は一体どこから来るのだろうか。

 

そもそも彼を紹介されたのは昨年12月、この企画旅で湖南省の長沙を訪れた時だった。茶葉市場の沢山ある店の中から、なぜか選んだ一軒、その店主が見せてくれたのが、ロシア人の写真だった。ロシア人が湖南省まで買付に来るのか、彼らに連絡を取る方法はあるのか、と尋ねたところ、『モスクワに中国人がいる』と言われたのが、彼だった。しかし中国茶を商っているとは聞いたものの、その素性すらよくわからない。それでもこのモスクワで、中国茶に関する情報を得る手段は他にはなかった。

 

彼、張さんがやってきたのは、約束の時間を少し過ぎていた。この近くに住んでいるとばかり思っていたのだが、何と40㎞も離れた場所からやってきたのだという。なぜここに来たのか。それはこのレストランが中国人、彼が面倒を見ている若者の開いた店であり、茶道具などもあり、便利だったからだろう。彼は昨日中国から戻ったばかりだという。何とも忙しい、典型的な中国人だった。

 

まずは中国料理を食べながら、彼の話を聞いた。因みにここの料理は中国人シェフが作る完全な中国料理であり、ロシアの料理しか食べていなかった私には、もう故郷の味がして、うれしかった。レストランの天井は非常に高く、開放感があった。飾りつけも中国だった。ロシア人もこのような本格的中華を食べるようになっているのだろうか。ここのオーナーが店を開いたのは昨年のようだ。店の外には、ロシア語と中国語で、今日のお勧めメニューが書かれている。

DSCN9555m

DSCN9562m

 

張さんは食事をしながらお茶を淹れてくれた。彼がお茶屋を始めたのは僅か10年前。ちょうど彼の会社は10周年を迎えるという。彼が初めてロシアに来たのはソ連邦が崩壊し、ロシアが大きな変化を迎えた頃だった。新疆ウイグルで育った彼は、政府の留学生としてモスクワの大学へ行き、その後も外交官としてモスクワの大使館にも勤務したらしい。その後ビジネス界に転じた。その商品がお茶だった。今ではモスクワの茶業界では有名人らしい。

 

食後張さんが本格的にお茶を淹れていると、そのパフォーマンスに人が集まってくる。ウクライナ人女性はここの常連であり、お茶好き同好会を幹部、来月中国にお茶見学に行く打ち合わせに来たという。ウクライナのオデッサもお茶のメッカらしい。ここは海ルートで運ばれた茶が陸揚げされ、モスクワに送られた場所。オデッサにも是非行ってみたい。彼らはその歴史に鑑み、中国茶を知ろうと努力していた。

DSCN9581m

 

万里茶路に繋がる遺跡などモスクワにはない、と彼は言い切った。ただ彼は復刻された湖北省羊楼洞に米せん茶を扱っているというので、それを買いたいと申し出た。茶は家にあるので娘に取りに行かせると言い、私はそれを待った。その間にも、不動産価格、賃金事情などモスクワの諸事情について、色々と聴取した。お茶を飲みながら話をするというのは、こういう時に役立つものだ。途中彼とロシア人がけんかになる場面もあった。お茶の売買をルーブルで行うか、人民元で行うかで揉めたようだ。『ルーブルの下落は凄い。誰でも外貨が欲しい』、これがロシアの現状のように思われた。

DSCN9584m

DSCN9585m

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です